夜中から読みだして明け方に読み終えた。

愈々残りの未読の藤沢作品も少なくなってきた。数えてみるとこの文春文庫であと12作ほどか。意外と思ったよりあった。まだまだ楽しめそうである。それにしても藤沢作品の自然描写ははてしなく美しい。そしてこれだけ何作読んでも同じ表現がふたつとして全くない。見事である。


「鬼ごっこ」

昔、盗賊をして金をためた吉兵衛は、今は足を洗い手堅く商売をしている。惚れた女も岡場所から見受けし囲ってやりそれなりに平和な暮らしをしていた。そんな時その女が殺される。執念で探したその犯人は、昔の顔見知りだった。その犯人を成敗する。


「雪間草」

尼僧松仙は、出家前おまつといいある男と婚約寸前に、殿様にみそめられてしまう。そのあとそのバカ殿は、正室をもらいおまつはお役御免となった。その際バカ殿の命で、ほかの男の伽を命ぜられた。出家したおまつにその婚約した男がバカ殿の勘気にふれ切腹の申し渡されると知らせがあった。おまつはその男の救済に江戸までそのバカ殿に直談判に出向く。


「寒い灯」

姑にいびられて家を出たおせんにその亭主がその姑が病にふせっているから世話をしにきてほしいと頼まれる。ばかばかしいと断るが、去り状をもらうために行くことにした。久しぶりに会う姑は、拝むばかりに感謝するが、もどる気はまったくなかった。そんな時おせんにいいよっていた男が、女衒だと知る。おせんは元の暮らしにもどるものマァいいかと思う。


「疑惑」

蝋燭屋に押し込み強盗が入る。だがその強盗は顔を見られており時をおかずに捕まる。下手人は勘当された養子の男だった。ただその男は、その家の女将によばれていったが殺しはしていないという。藤沢周平作品に時々見られる推理物だが、全く駄作である。その男は、殺しについては頑として口を割らないが、なぜか女将によばれたことは言わない。言えばすぐに解決するのにと思うが・・・


「旅の誘い」

これも時々登場する広重と北斎の話。全く面白くない駄作。


「冬の日」

冬の寒い日、清次郎は寒さにふるえて通りすがりの居酒屋に転がり込んだ。その店は、女二人でやっていて寒々としていたが旨い酒を飲ませた。その若い方の女がじろじろと清次郎を見ていた。清次郎には覚えのない顔であったが、何日かあとにふと思い出した。昔小さいころ遊んでいた大店の娘おいしだった。その家から清次郎の母は、仕事をもらって二人食いつないでいた。今は仕事もうまくいき近々店を出すまでになった清次郎はおいしのあまりの落ちぶれように少しでもたすけになればとおいしの家をさがしあてたがおいしはひものような男と住んでいた。そしてその男はおいしを目の前で殴った。清次郎は主筋にあたるおいしをなぐるその男が許せなかった。半殺しにして放り出した。何日かたったあとおいしが訪ねてきた。清次郎はおいしに一緒に店を手伝ってくれないかといった。


「悪癖」

三十五石扶持の男は、そろばんでは右に出るものがいなかったがそんな安給料にはわけがあった。彼には酔うと人のほっぺたをなめるという奇癖があった。

この話は、以前に絶対に読んだことあがる。本棚にある藤沢本を何度か調べたし、感想文も読み直したがいまだに出てこない。どこで読んだのだろう????

「花のあと」
 祖母以登が孫に昔を語る一人称と、三人称の組み合わせで構成されているユニークな作品。
 祖母には思い人がいた。その男江口は蕃下でも指折りの剣の使い手であった。以登も女剣士としてその名が蕃下にとどろいていたが立ち合うと江口には子ども扱いされた。江口はほどなく身分違いの家に婿に入ったが以登はその相手を聞いて驚いた。以登の仲間の身持ちの悪い女で倍ほど離れた妻子持ちの男と付き合っていた。数年後以登は、江口が自裁したと聞いた。江口は仕事上の失策で藩に迷惑をかけたことで腹を切ったのである。だがそれはある男の陰謀が絡んでいた。その男は江口の妻の例の浮気相手であった。以登は、その男をよびだし成敗する。

-水面にかぶさるようにのびているたっぷりした花に、傾いた日射しがさしかけている。その花を、水面に砕ける反射光が裏側からも照らしているので、花は光の渦にもまれるように、まぶしく照りかがやいていた。

-おだやかな早春の日射しが、左手につづく雑木の丘と麓の鳳光院の木立と屋根、右手遠くにのびる城下の家々を照らしている。雪は消えたばかりで、丘の中腹や、麓の湿地あたりには、まだ黒ずみよごれた残雪が見え、その雪どけの水をあつめてややにごっている川水が、音を立てて流れくだっていた。
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・知悉(ちしつ):よく知ること。
・たばさむ:小脇に抱えること。
・卒爾(そつじ)ながら:突然で失礼ですが。卒爾(にわかなさま、軽率なさま)
・烏滸(おこ):おろかなこと、ばか、たわけ。